「太一クンは、どこ勤め?」
「え、俺?」
「法律事務所」
中野を睨み付ける木戸の視線もモノともしない様子で、中野は話題を変えた。急に別の話を振られて慌てる太一を庇うように木戸が中野の問いに答えた。
「法律事務所? スゲェな、メリルリンチみてーな?」
「それお前……証券会社やろ」
「あーそかそか。アーサーアンダーセンかな」
「それ監査法人やろ、てか情報微妙に古いし。もーなんやねんお前」
「いやー兄貴が昔いたんだよね。法律事務所だよな。バスキンロビンス?」
「はぁ? それアイスクリーム屋やんけ」
「わはははスゲーな木戸。クリフォードチャンスだよな」
「お前それ……、……おおそれや。法律事務所。つっても太一が勤めてんのは外資とちゃうけどな」
中野がさも可笑しそうにくっくっくっ、と身体を揺らして笑うのを、忌々しげに木戸が中野を睨み付ける。
「いーねぇ木戸。今日は特にすかさず入るね。そんなに俺と太一クン、話させたくねんだ?」
「……うるさい、黙れ」
中野は不貞た表情で口を噤んだ木戸に笑って、今度こそ、といった姿勢で太一を覗き込んだ。
「そーかぁ、太一クン、法律事務所で働いてんだ。司法試験は?」
「あ、うん、目指しながら」
「そかー。俺も何か、揉め事あったらんじゃ太一クンに頼むね」
「んー……揉め事なんか、ないに越した事ないねんけどな。てか俺まだ試験受かってへんし」
「んー大ー丈夫。太一クンなら一発合格間違いねぇって」
「いや俺学生ん時一回落ちてるから」
「あ、そなの。学生合格目指してたんだ。その方がスゲェって。……けど太一クンが司法試験受かったらアチコチ引っ張りだこなんじゃね? 法曹界のコイケテッペー、とか言われそうじゃん」
「はぁ?」
「だって……この大きい目にこの口元にこの肌……。髪だってサラサラだし」
「ちょ……」
中野の指が、太一の髪を摘んだ。突然の事態に太一は何もできないまま身体を強張らせた。
「おい中野」
「あ?」
がた、と椅子の音を立てて木戸が立ち上がった。
「俺ら、帰るわ」
「え、もう?」
「お前太一が見たかっただけやろ? もうええやろ」
「よくねーよこれからじゃん」
「もうええて。太一、行こ」
「あ、え? ……うん」
木戸に手首を取られて、困惑した表情のまま太一も立ち上がった。
「まだ飯一杯残ってんのに?」
「全部食うてもええで中野。ついでに会計も。払(はろ)とけよ。じゃーな」
木戸は太一の手首をぐい、と引いて、行くぞ、と出口を顎で示した。
じゃあ、と中野に小さく挨拶し、太一は木戸に促されるまま、木戸と一緒に店を出て行った。
あとには手の付けられていない料理と、呆気に取られた顔で一人佇む中野が残された。
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『これで、卒業。』『トモダチ、卒業します。』(R18)
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